@「医療とAI(人工知能)」② ラジオホームドクター原稿 2017年9月8日分
便宜上アナウンサーさんを㋐、下地を㊦とします。
㋐;今日はどのようなお話でしょうか
㊦:昨日に引き続き「医療とAI」というテーマでお話ししたいと思いますが、今日はAIがどういった形で医療に取り入られているかなどに関してお話しできればと思います。
㋐;宜しくお願いします。
㊦:厚生労働省による今年6月27日の保健医療分野におけるAI活用推進懇談会の報告書ではゲノム医療、画像診断支援、検査・疾病管理・疾病予防も含む診断・治療支援、医薬品開発、介護・認知症、手術支援、人材育成、ELSI;エルシーと呼ばれる研究・技術がもたらす倫理的法的社会的懸念などを特定し検討する活動などの報告がなされています。
㋐:具体的にはどのような例があるのでしょうか?
㊦:東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターでは、IBMのAI ワトソンを導入し、がん患者さんの遺伝子情報と照らし合わせ、症状や検査結果から原因疾患を特定し、より適切な治療法を推論させるシステムが開発されています。
画像診断支援では、オーストラリアで2015年にエンライティック社のCT画像診断分析サービスがすでに行われ、早期の肺癌の発見などに寄与しているそうです。
診断・治療支援では、自治医科大学のホワイト・ジャックは症状の特徴や出現状況、検査結果などから病名候補とその確率を示し、その病名ごとに推奨される検査や薬剤、見逃してはならない致命的な疾患などが提示されるAI搭載の電子カルテが開発されています。
㋐:医師や研究者の仕事はAIに取って代わられるということになるのでしょうか?
㊦:現時点ではAIは医師や研究者が、検索や学習に要する膨大な時間と手間を大幅に軽減してくれる有益なツールと考えられています。 例えば、医師の基本である問診という作業は、例えば「おなかが痛い。」と言って受診される患者さんから、いつからおなかのどのあたりが、どういった時にどのように痛むのかといったことを聞きながら、患者さんの口調や話し方、表情などを見つつ患者さんのキャラクターや考え方・感情なども想像して、医療に必要な情報をうまく聞きっとって、鑑別すべき疾患などを頭に浮かべ、聴診や触診などの診察や必要と思われる検査を進めていくという手順を踏むのですが、通常行われている問診であっても弱いAIではそのような総合的な診察は難しいように思います。
ヒトの表情を読みとるAIは既に開発されてはいますし、難しいと思われる精神科領域の問診時間をAIの活用で何分の1かに短縮できたという報告もあります。
㋐:相互補完的な働きをするということですか?
㊦:そうですね、ワトソンのように、何千万という医学論文と特許情報をデータソースに持って、その全てから関連する情報を短時間に検索して、それらを分類して紐づけて、確からしい結論を導き出すということはヒトには困難ですので。
㋐:AIの側も実臨床のデータを活用するのですか?
㊦:医療分野でAIが学習するためには、主に教師あり学習即ちあらかじめ正解が分かっているビッグデータなどを元に強化学習がなされます。SS-MIX2といった電子カルテ情報の標準化や、個人情報を守るための匿名化が可能になれば、リアルワールドと呼ばれる実臨床のデータソースからAIが機械学習によって進化していくことで、より信頼性のあるものになり、例えば、各社の電子カルテにAIが搭載されて病院や診療所で出会うようになる日も遠くはないかもしれません。
㋐:より信頼性のある医療を受ける未来が待っているということですか?
㊦:理想的にはそうですね。新薬の開発や個々人の遺伝情報に即したオーダーメイド医療といった分野もさらに開発されていくと思います。既に働きが分かっている生体内の受容体にどのような構造をしていればその結合が適切になるか、つまり薬の効果がより強く出るか、より副作用を軽減できるか、あるいは既存の薬で別の効能が発揮できないかなどにも応用されます。介護については介護ロボットの開発だけでなく、費用対効果が最も良い介護施設・法整備はどのようなものか、といった問題。認知症においては診断から、新薬、薬剤以外でも現在有効とされている適度な有酸素運動など以外の方法を探ることにも活用されていくと思います。遠隔診療にも導入されるでしょう。
㋐:あらゆる場面でAIが関わってくる未来が待っている感じですね。
㊦:いずれにしてもAIによる変革という、後戻りのない大きな流れの中に入っているということが、今回少し勉強させてもらった私でも強く感じることができました。ありがとうございました。